昼寝のための部屋が、会社に増えている
要点
- 仮眠スペースを設けるオフィスが、国内外で少しずつ増えている。
- NASAの研究で知られるように、二十数分の短い仮眠は覚醒度と作業効率を回復させる。
- 休息を成果のための手段として正当化する見方には、批判もある。
- ただし、制度として仮眠を許すこと自体が、働き方の前提を変えつつある。
昼下がりのオフィスの一角に、照明を落とした小さな部屋がある。リクライニングチェアが数台置かれ、社員は予約を入れて二十分ほど横になる。数年前なら「勤務中に眠るとは何事か」と言われたであろうこの光景が、いま静かに広がりつつある。仮眠を制度として認める企業が、国内外で現れている。
眠りを許す部屋
仮眠スペースの形はさまざまだ。専用の個室を設ける企業もあれば、横になれるソファとアイマスクを用意するだけの簡素なものもある。共通しているのは、勤務時間内に短時間眠ることを、サボりではなく回復として位置づけ直している点だ。午後の眠気を気力で押さえつけるのではなく、短く眠ってから仕事に戻る。その方が結果的に効率がよいという判断が、背景にある。
二十数分という単位
この判断を支えてきたのが、仮眠の効果に関する研究だ。NASAが旅客機の乗務員を対象に行った研究は広く知られている。短時間の仮眠が、覚醒度と作業遂行の回復に有効であることが示され、二十数分という長さが、深い眠りに落ちきらず、すっきりと目覚められる目安として語られるようになった。長く眠りすぎると、かえって覚醒に時間がかかる。だからこそ「短く」が鍵になる。
もっとも、研究が示すのはあくまで条件付きの効果であり、すべての人にそのまま当てはまるわけではない。それでも、仮眠を非合理な怠けと見なしてきた職場の常識を、科学的な知見が少しずつ崩してきたのは確かだ。
回復は、何のためか
ここで一つ、立ち止まるべき問いがある。仮眠スペースの多くは、「生産性が上がる」という理由で正当化される。眠ることが許されるのは、それが成果に結びつくからだ。だが、この論理を突き詰めると、休息は労働のための燃料補給に過ぎなくなる。
アメリカの活動家トリシア・ハーシーは『Rest Is Resistance』で、休息を生産性の手段に還元する考え方そのものを批判した。彼女にとって休息は、効率を上げるためではなく、人間がただ休む権利として擁護されるべきものだった。一方で、現実の職場では、まず「効率に良い」という説明がなければ、仮眠の導入は進まない。理念と現実のあいだには、なお距離がある。
前提が変わるということ
仮眠スペースが成果のために導入されたのだとしても、結果として職場に生じる変化は小さくない。勤務時間中に眠ってよいという事実は、「働くあいだはずっと稼働し続けるべきだ」という前提を、静かに揺るがす。一度緩んだ前提は、効率の論理だけでは元に戻らない。
仮眠の部屋は、まだ多くの職場で例外的な存在だ。だが、その小さな部屋が示しているのは、休息を業務の外へ追いやってきた働き方が、見直されはじめているということだ。照明を落とした休憩室と同じように、回復のための環境をどう設計するかは、その組織が人をどう扱おうとしているかを映している。
参照した資料
- NASAによる乗務員の仮眠に関する研究(Rosekindらの報告として知られる)
- トリシア・ハーシー『Rest Is Resistance』