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休憩室の照明を落とすと、何が変わるか
休息環境

休憩室の照明を落とすと、何が変わるか

PauseArchitecture 編集部 2026.05.28 約3分

要点

  • 休憩室の照明を明るく均一にするか、落として陰影をつけるかで、空間の性格は大きく変わる。
  • 強い光は覚醒を促し、低く暖かい光は身体を緩めるよう働く。
  • 谷崎潤一郎は、陰翳のある空間にこそ落ち着きと深さがあると説いた。
  • ただし、暗すぎる空間は安全性や視認性の問題を生むため、休息の質だけで決められない。

オフィスの休憩室には、たいてい執務室と同じ白い照明がついている。天井いっぱいに並んだLEDが、机の上を影なく照らす。だが、その同じ部屋で照明を半分に落とし、暖色の光に切り替えると、空間はまるで別の場所になる。明るさは、休憩室が「休む場所」になるか「もうひとつの執務室」になるかを分ける、最も大きな変数のひとつだ。

覚醒を促す光

明るく、青みを帯びた光は、覚醒を促す。これは作業空間にとっては望ましい性質だ。手元がはっきり見え、眠気を遠ざけ、集中を保ちやすい。多くの職場が昼白色の強い照明を選ぶのは、生産性のためには理にかなっている。問題は、その同じ光を休憩室にまで持ち込んでしまうことだ。覚醒のための光に照らされた部屋では、身体はなかなか緩まない。

緩める光

一方、低い位置から差す暖色の光は、反対の方向に働く。光量を落とし、色温度を下げると、空間は落ち着き、肩の力が抜けていく。間接照明やスタンドの光は、天井からの均一な光と違い、空間に明暗の差をつくる。この明暗の差が、視覚的な刺激をやわらげ、休息の合図になる。庭を眺めるときの注意の緩みと同じように、光もまた、注意の張りをほどく。

つまり、休憩室の照明を執務室と同じにするか、あえて落とすかは、その部屋に何を期待するかの選択になる。覚醒を保ったまま短く休むのか、いったん身体を緩めて回復するのか。両者は同じ「休憩」でも、必要な光がまるで違う。

陰翳という擁護

谷崎潤一郎は『陰翳礼讃』で、すべてを明るく照らそうとする近代の感覚に異を唱えた。彼は、薄暗がりのなかに沈む座敷や、ほのかな光に浮かぶ器の美しさを擁護し、陰影こそが空間に奥行きと静けさを与えると説いた。明るさを善とし、暗さを欠如と見なす発想そのものを、谷崎は問い直した。休憩室の照明を落とすという小さな選択は、この陰翳の感覚を、現代の職場に持ち込む試みでもある。

暗さの限界

もっとも、暗ければよいというわけではない。照明を落としすぎれば、つまずきや転倒の危険が増し、清掃や安全確認もしにくくなる。読書や軽い作業をしたい人にとっては、暗い部屋はかえって使いにくい。休息のための暗さと、安全のための明るさは、しばしば対立する。だからこそ、固定した一つの明るさではなく、時間帯や用途で調整できる照明が、現実的な落としどころになる。

休憩室の照明は、ただの設備ではなく、その空間が人にどう過ごしてほしいかを語る言語だ。落とすか、保つか。その一段階のつまみの位置に、回復をどれだけ本気で設計しているかが表れる。仮眠の部屋と同じく、休息の環境づくりは、明るさという最も基本的な要素から始まっている。

参照した資料

  1. 谷崎潤一郎『陰翳礼讃』
  2. 照明の色温度と覚醒・休息の関係に関する建築照明の一般的知見
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